サーカディアンリズム(概日リズム)を活かした猛暑期の運動計画
猛暑が続く中、日中の外出は難しく、夏の筋力トレーニングや基礎代謝維持は昔と違って工夫が必要です。クリニックや教室でも室内で出来る効果的なトレーニングや運動をご紹介していますが、今回は 私たちの体に備わった「サーカディアンリズム(概日リズム)」に注目して、夏の運動計画を立ててみましょう。
サーカディアンリズム(概日リズム)は、私たちの体内に備わった「約24時間周期の生体リズム」であり、睡眠・覚醒・体温・ホルモン分泌・血圧・代謝など、ほぼすべての生理機能に影響を与えています。早朝に人間の体は、メラトニンと呼ばれる睡眠ホルモンの分泌が低下し、体温が低い状態で目覚めます。交感神経に切り替わる午前中に日光を浴びることでセロトニンといういわゆる“幸せホルモン”が分泌され活動量が上がり、夕方には体温や筋力のピークを迎えます。夜間はメラトニン分泌と共に副交感神経が優位になり眠気が増してきます。このサーカディアンリズムは動物・植物・菌類などほぼすべての生物に存在し、進化的には紫外線によるDNA損傷を避けるために獲得された生理現象です。
こうした概日リズムを活かして、猛暑期の運動をより効果的にする方法があります。「早朝の汗腺刺激」と「夕方の筋骨格刺激」を意識した分割トレーニングを提案します。
人類はサルから進化する過程で、体毛を減らし、全身にエクリン汗腺を発達させることで、長時間の運動と暑熱環境への適応を獲得しました。草原での狩猟生活では、早朝の涼しい時間帯に活動を開始し、発汗によって体温を調整しながら長距離を移動する能力が生存に直結していました。文化的な背景からも、日本の農村部では、昔から「朝の涼しいうちに畑仕事を済ませる」という生活習慣があり、朝の発汗=活動開始の合図として機能していました。汗は「労働の証」として宗教的・社会的意味も持ち、身体と環境の関係性を象徴するものでした。一方で、江戸時代の武士階層では、夕方に剣術・弓術・馬術などの稽古を行う習慣があり、下肢や上肢の発達が夕方の活動と関連しています。夕方は体温が高く、筋力発揮能力がピークに達する時間帯であり、技術的・力学的な運動に適していたと考えられます。
猛暑期は、朝軽い運動で汗腺を刺激し、暑熱順化を促す。夕方は筋力トレーニングで筋骨格系を活性化する。サーカディアンリズムを意識することで、自律神経も安定化しやすくなります。30分以上のランニングを筋トレ直後に行うと、筋持久力は維持されるが最大筋力やパワーの向上が抑制される傾向があるといった、コンカレントトレーニングの干渉作用も以前ブログで書きましたが、こうした観点からも朝と夕で時間を空けることも必要です。時間帯を意識した猛暑のトレーニングメニューを是非実践してみてください。