映画『フロントライン』を観て 医療者の立場で振り返る
医療従事者として、観るべき作品だと感じて『フロントライン』を鑑賞しました。DMAT(災害派遣医療チーム)の緊迫した活動が中心に描かれており、現場の張り詰めた空気が伝わってきました。中にはマスク未着用のシーンがあり、なぜ…と思いましたが、最後のテロップで適切な説明が入り、納得と安心につながりました。
この作品はフィクションではありますが、私にとっては実体験と重なる部分が数多くありました。あの頃、私は東京医療センターでクルーズ船の患者を受け入れていました。DMATに所属する同センターの仲間からは船内の様子や搬送の過酷さを耳にしました。自らも患者対応に追われる中、「面会謝絶」で家族と引き離される入院患者の姿を見るたび、胸が詰まる思いでした。
プライベイトも決して安らげる環境ではありませんでした。子ども達が眠った頃に帰宅し、なるべく接触を避け、両親には感染のリスクを考え会うことを控えました。職場の仲間とも外出を控え、医療者同士の距離すら制限された日々。映画を観ながら頭をよぎりました。
思えば2003年SARS(重症急性呼吸器症候群)の流行時も、私は研修医として現場に立っていました。訳も分からず防護服に身を包み、扉を開けたあの瞬間の不安は、今も鮮烈に記憶に残っています。SARSの経験がコロナの時に活かしきれておらず、日本でも早く緊急災害時の医療体制が整ってもらいたいです。
そしてコロナ禍では多くのコメディカルが心身の限界で職場を去っていきました。日本健診学会では、まず医療者自身の健康を守ることが社会の安全につながると提唱し、医療従事者の健診受診を促し、そうすることで健診の場が安心であることを示す必要性を訴えてきました。
『フロントライン』は、一般の方が医療の現場を少しでも垣間見るきっかけとして、価値ある作品だったと思います。私自身にとっても、深く考えさせられる時間となりました。