猛暑と便秘の意外な関係 腸は“暑さ”に敏感
今年の夏は、まさに“猛暑続き”。連日35℃を超える日が続く中、診察室で目立っているのが「便秘」の相談。実は、猛暑と便秘には深い関係があるのです。
便秘の改善には、水分補給と適度な運動が基本。でもこの暑さでは、外での運動は現実的ではなく、汗による脱水も起こりやすい。つまり、腸にとっては“悪条件が揃っている”季節なのです。もちろん、室内でできる運動やこまめな水分摂取は大切。でも、今回はもう一歩踏み込んで、「自律神経の乱れ」という視点から便秘を考えてみます。
人間の発生学を紐解くと、腸は神経系よりも先に形成されます。原始腸管からは肝臓、膵臓、胆のう、肺など、生命維持に欠かせない器官が派生していきます。最近の研究では、昆虫の脳が食道をリング状に囲んでいたり、神経系を持たない海綿動物でも、消化腔の周囲に神経伝達物質を分泌する細胞(ニューロイド細胞)が存在すること。つまり、腸は脳と密接に関係していて、心の影響を受けやすい臓器であることがわかっています。
夏は、自律神経が乱れやすい季節。例えば…室内外の気温差(冷房と炎天下の往復)、夜間の睡眠不足(熱帯夜)、冷たい飲み物の摂取による内臓の冷え、紫外線による“隠れストレス”。これらが積み重なると、自律神経のバランスが崩れ、腸の蠕動運動が鈍くなります。結果として、便秘が悪化するのです。
便秘薬は便利ですが、使い方には注意が必要です。脱水状態で使うと、便がさらに硬くなることも。冷えた腸に刺激性下剤を使うと、腹痛や下痢を引き起こす可能性も。長期使用で腸の自律性が低下し、「薬がないと出ない」状態になることも。だからこそ、薬で“無理やり動かす”よりも、腸の環境を整え、“自分で動ける腸”を育てることが大切です。
猛暑を乗り切る腸ケアのヒントとして、冷たい飲み物はほどほどに。常温の水や白湯をこまめに。朝の軽いストレッチや深呼吸で腸を目覚めさせる。発酵食品や水溶性食物繊維で腸内環境を整える。湯船につかって副交感神経を活性化。などがおすすめです。腸は、私たちの“内なる環境センサー”。猛暑の中でも、腸の音に耳を傾けながら、心地よいリズムを取り戻していきましょう。